音楽劇としてのソドム--
もしくは、誰もいない世界で鳴っている音楽
作曲家・長嶌寛幸インタビュー! (2/2)

■福島音響さんを唖然とさせる
長嶌 だいたいね、無理難題を言うんだけど、でも高橋さんとしては無理難題でもなんでもないじゃないですか...。これ話が跳びますけど、ダビングのときなんですけど、最後の地下世界に降りるときに、(テレーズが)「市! ソドムの市!」って言うじゃないですか? あそこに「駆け寄る足音が欲しい」って話になって、スタジオの人が実際に砂の敷いてあるところにいって「タタタッ」ってやると、例によって高橋さんが「これはちがう」「これもちがう」「もっとこういう感じで」とか言うから、そのときは、もうボクは高橋さんとどういうふうにやっていくのがいいのかってのをわかってたから、「高橋さん、それ自分でやってください!」と(笑)。それがいちばん早い。で、3テイクぐらい録って、「はい、オッケーです!」ってボクが言って、高橋さんが戻ってきたときのセリフが「いやあ、座頭市が峠を駆け抜けるように走るのは難しいですねえ」って!(爆笑)
新谷 ワッハッハッ、あれは座頭市だったんですか。
長嶌 そこでようやく「ああ、高橋さんはそうやりたかったんだ!」って。だからアレ、高橋さんの足音ですよ。
高橋 「監督がスタジオに入ってきて自分で効果音を作ったのは初めてだ」って福島音響に言われました(笑)。
長嶌 ホント、地獄みたいでしたね、完成まで(笑)。ボクもね、生まれて初めてですよ、仕事をやってて自分が間に合わないから「ダビングを延ばして」くれって言ったのは。効果屋さんも完全にもうパンクしてたんですけど...効果屋さん...福島音響の話とかはしてないんですか。
高橋 福島音響さんっていうか、小宮(元)さんも度々チャプター解説には登場してますよ。ほとんど呆れてたっていう。
長嶌 いやあれ、ボクが悪いんですよね。最初に高橋さんとやって、なかなかオッケーが出ないんで、「キーになるSE(効果音)は先に高橋さんに聴かせといたほうがいいよ」っていう話を小宮さんにしてたんですよ。「ぜったいヒドいことになるから、ダビング当日に」って。だから「事前に聴かせといてくれ」って言ったら、「ハイわかりました」って。それで、高橋さんが最初に行った日の翌日にボクが小宮さんに電話したら、「いやー、エライ目に遭いましたよ。ピストルの弾一発で三時間ですよ!」って(笑)。
新谷 ワハハハハ、ピストルの弾一発で三時間!
長嶌 来た早々「スタジオにあるピストルの音ぜんぶ聴かせてくれ」って言われちゃったって(笑)。で、「パァーンて乾いた実音とバキューンの中間を狙いたい」と。
高橋 いや、ボクはてっきり、そういう裏事情を知らなくて、小宮さんがそういう提案をしてきてくれたので嬉しくて、「ああ、やる気のある人たちなんだ」って。で、一生懸命「こうですか?」とかっていろんなのを出してきてくれるから、ぜんぶ誠実に答えてたら、途中でだんだん小宮さんが怒ってきてるのがわかって...。
長嶌 ワハハハハ、でしょ?(笑)
高橋 こっちは理由がわからない。「あなたの問いに答えてるだけなのに、なんで怒るんだ?」っていう(笑)。
長嶌 いやー高橋さんらしいエピソードだなあ。あれはボクの責任なんですよ。でもあの話をしなかったら、わりと直前まで音の準備が出来てないからっていうんで、当日いきなり聴いてトンデモないことになってたと思いますよ。
高橋 いや、音は贅沢できました。なんか福島の社長さんが面白がってくれて、B29の実際の爆音とか、ソドム車も戦車のキャタピラ音をわざと入れてくるとかって、その遊び心の感じが、我々がずっと思ってたテイストと近いんですね...古い昔からの職人気質のおじさんの発想が。それはなんか、ことごとく当たりだったっていう。不思議な人だったなあ。
長嶌 あの社長はいいですよね。ぼくは十年以上前にあそこでダビングしたことがあるんですけど...福井ショウジンっていう監督の『ピノキオ√964』て、もうバカ・フルスロットルみたいな映画をやってて、「どうもご無沙汰してます」って言ったら、完全に忘れてて、しばらくして「ああ、そんなこともあったねえ」って。

■終わらない殺陣のシーンに 終わらない「マカロニ」のリテイク
高橋 また曲の話に戻りますけど、「マカロニ」は...あれはでも、けっきょく最初に出て来たものになったんですよね。
長嶌 あれがいちばんキツかったですね。
高橋 え、「マカロニ」が?
長嶌 リテイク15ぐらいやったんですよ。で、ぜんぜんダメで、けっきょく...これ言っちゃっていいのかな、(モリコーネの)『血斗のジャンゴ』が仮に貼ってあったんですよ。で、編集が終わった状態のものを見たら、その〈ジャンゴ〉に合わせたように編集がされてる。
高橋 それはやってないですよ。
長嶌 いや、でも合ってたんですよ。
高橋 偶然です。
長嶌 偶然にしろ合ってましたよ。で、「これはどうしようもないなあ」と思って。実はナマ(演奏)と打ち込みのちがいっていう問題があったんですよ。ボクは完全に打ち込み系だし、高橋さんはどっちかっていうと完全な打ち込みはダメな人なので、「ナマと打ち込みのちがい」みたいな話になって、「じゃあ、一回俺が〈ジャンゴ〉を完全に打ち込みで作るよ」って話で、一回作ったんです。で、「やっぱりちがうでしょ?」「うん、ちがうね」って話になって、「じゃあ、最初に戻ろうか」っていうことになったんですよね。あれがいちばん最後まで引っ張ったんじゃないかな。
高橋 それって、最後の魔法陣でかかる「マカロニ」ですよね。要するにチャンバラが始まるところ...それがいちばん大変だったってことですね。最初のほうのテレーズのテーマとして荒野に流れるものは、わりと長嶌さんが最初にファーストインプレッションで出してきたものがやっぱりベースになりましたね。
長嶌 あとは犯罪の...。
高橋 「犯罪的ジャズ」ですね。
長嶌 ああ、そうそう(笑)。
高橋 これも(元ネタは)『マブゼ対スコットランドヤード』っていうね(笑)。
長嶌 で、ボクは、いかに打ち込みでジャズをやるのが不毛かって話をしたんだけど...そりゃあね、打ち込みでやってるんだから仕方ない。高橋さんは質感へのこだわりがすごいあるんだけど、基本的に一回シネに焼かれた音でないと本当は満足しないんだろうなとボクは思いましたね。
高橋 それは、小宮さんからも言われました。
長嶌 それが生理になっちゃってるんでしょうね。
高橋 まあ、そういうので育っちゃったですから。小宮さんにも「霊的なラップ音」のときにロバート・ワイズの『たたり』とか聴いてもらって「これですよ!」って言うと、「これは、だから、光学録音を通した音でないといけないんで」って。
長嶌 それで、「一回光学を通そうか?」ってアイデアも出ましたよね。
高橋 うん、「機械はあるから通しましょうか?」とかって小宮さんは言ってくれたんだけど、制作デスクの田中さんが「頼むからヤメてください!」って(笑)。それでやらないことになったんです。

■幻のマブゼ音楽をヒントにした名曲「ソドムのテーマ」
長嶌 で、例の「ソドムのテーマ」ですか。
高橋 これが、またね...ホントそれが『ドクトル・マブゼ』の...けっきょくモノがなんなのかよくわからないんですけど、いまビデオで出てる『ドクトル・マブゼ』には入ってない...こないだ清水崇がアメリカに行って買って来てくれた『ドクトル・マブゼ』にもちがう曲が入ってる。だから、昔フィルムで上映されてたときに入ってる伴奏曲で、どうも六〇年代ぐらいに作られた曲らしいんですけど、誰が作ったのかもよくわからなくて、それを昔ボクが劇場でラジカセで録音したテープがあって、「マブゼと言えばこれしかない!」っていう。
長嶌 まあ、そんなものを持ってきてですね、「これです!」って来たわけですよ(笑)。そこから「ソドムのテーマ」と「催眠的音楽」と呼ばれていた...「キーン」という洗脳するときとか、大変なことが起こったときとかにかかってましたが...その音を作ろうっていうことになったんですけど、やっぱり元のテープの音がモコモコになっちゃってて、なにがなんだかよくわかんないわけですよ。譜面化しちゃうと、単に「ツー」っていってるだけのような感じにも聞こえるんだけど、そうでもないと。だから、たぶんいちばん今回、技術的に複雑なことをやってるのって「催眠的音楽」だと思いますね。
高橋 あの「キーン」ていうあれですか。
長嶌 うん。だから、元を聴くと、不協和音になったり協和音になったりってのが不連続になってて、当時からその音だったのか、いくつものプロセスを通ってそうなったのかがわからないんで。結局、いくつかの協和音と不協和音をオーバーラップさせて、なんとかああいうふうに聞こえるようにして、やっとオッケーが出たっていう。で、「ソドムのテーマ」に関しては、けっきょく「どうすりゃいいんでしょう、高橋さん?」的状態にボクはなって。「わかりました! じゃあ、まんまやりますよ!」「コピります! 誰が作ったんだかわかんないんだし...」ってやったら、でも実際作ったら「そうじゃない」ってことになって。で、けっきょくあれも最初に作ったものに近くなったんですよね。
高橋 そうですね。ファーストインプレッションにはなかったけど、途中で作ってもらったやつですね。やっぱりね、あれが結果ね、良かった。「ソドム」のイベントとかに行くときとかも...こないだも広島に飛行機で行く途中とかもずっと歌ってるのがあれ。「ターン、タータタン、タタ、タンタータターン」って。
長嶌 ワハハハハ。高橋さん歌いますよね(笑)。
高橋 頭のなかでですけどね。たまに口ずさんだりしますね。あの「ソドムのテーマ」は本当になじむ...やっぱり最初にね、誰でも口ずさめるような単純な音楽がいい、映画音楽はそういうものがいいってお願いしたんですけど、ホントにそういうものになりましたよね。
長嶌 そうですね。それとあれは「ダン、ダダ、ダン」問題もありましたね。
高橋 最初のパーカッションの部分ですよね。
長嶌 あれはどこにもなかった音楽なんですよね。
高橋 うん、ボクの記憶では『ドクトル・マブゼ〈第二部〉』のいちばん盛り上がるシーンで鳴っていたパーカッションだったんですね。それって、テレーズが3月10日が「東京大空襲の日」だっていうのに気づいたときの「ダン、ダダ、ダン...」っていうあの音ですけど。
長嶌 うわー、久しぶりに高橋さんの口からソレ聞いて、からだが震えてきましたよ(笑)。
高橋 あれは『ドクトル・マブセ〈第二部〉』に入ってたんだと。でも、何度聴いても入ってないんですよ。
長嶌 頭のなかだけで鳴ってたんですね(笑)。
高橋 頭のなかで幻聴した音楽だったんで、「あ、これは著作権がない」「オリジナルだ!」っていうことで、そのまま作っていただきました。
長嶌 狭いスタジオで高橋さんが、そのリズムを机を「トン、トト、トン」て叩いて、ボクがその横で打ち込んだわけですよ。すると高橋さんが「このダン、ダダ、ダンの最後のダンは低い音ですよね」って言うんですよ、突然。で、パーカッションだから、微妙なちがいはあるんですけど、ピッチ(音程)は基本的に一定なんです。ところが「どうしても最後の音は下がってる!」って話になって、で、打ち込みで下げてみたり上げてみたりして、「ホラ、高橋さん、ちがうでしょ?」って(笑)
新谷 ワハハハッ、実証しないとダメなんだ。
長嶌 本当にやらないと高橋さんが納得しないっていう。あれはなんか音楽講座みたいでしたね(笑)。

■「合掌」--誰もいない世界で鳴る音楽
高橋 それでいよいよ最後のシーンになるんですが。
長嶌 最後はね、「マカロニ」の変形の斬り合いの音楽があって、それがそのまま「合掌」までなだれ込むんですが、「合掌」のところが、なかなかこれも決まらなかったんですよね。
高橋 あの「合掌」のところは、仮で『ゴジラ』の「平和への祈り」がついてたんです。
長嶌 いやー、いきなり大ネタですよ(笑)。あれもいろいろあったんですけど、「終わった感じがしない」とかって言われて。あれをいちばん最後に作ったんですよね、たぶん。で、「斬り合いのところのあのメロディで終わろう」ってことになって...これも生まれて初めてなんですけど、曲を作る最初から最後までずっと人が見てるところで曲を書いたっていう(笑)。あの短い曲なんだけど、ずーっと高橋さん、横に座ってましたねえ。
高橋 なんかね、あのとき、長嶌さんがすごく印象的なことを言ったんですよ...いや、あれ「地獄唄」のときだったかな?「地獄唄」の第二バージョンを作ったときに「これ軍歌みたいですね」ってボクが文句つけて、それはけっきょく変更になったんだけど、その軍歌のはずのバージョンを長嶌さんの仕事場で流してみると、悲しい感じがするんですよね。勇猛果敢ではなくて悲しい曲に聞こえてきて...あっ、そうか、それであの軍歌みたいなやつを殺陣のところで一回アテてみたんだよね。それで、「いやあ、軍歌みたいな曲なのに勇壮ではなく、ひたすら悲しいですよね」って言ったら、「いやー、それがボクの本質なんですよ」って。
長嶌 言いましたっけ?
高橋 要するに「人間が誰もいない世界で鳴ってる音楽が作りたいんですよね」とかって。
長嶌 うわー、それ、イヤなこと言ってますね(笑)。
高橋 それはちょっとすごいなあって思って(笑)。そうなんだよなあ、このなんとも言えん悲しみがもうちょっといけば、それが「合掌」のラストにいくはずだって思って。おかげで、そのノリが見えてきて、それで立ち廻りの後半に、みんなお互いの共食い状態になる転調の曲で、これで最後までもっていけるんじゃないかって方針がやっと見えてきたっていうのがあったですよね。で、本当は「合掌」でこの映画自体が終わるはずだったんですけど、「カーテンコールをしよう」ってことになって...いや、それも編集中からずっとあったアイデアだったんだけど、ちょっと恥ずかしいかなあっていうのがあって、「どうしよう?」って言ってたんだけど、新谷さんとかに意見を聞くと「やっていいんじゃないですかね」って言うから、「じゃあ、やろう!」って。でも、それって、長嶌さんに「もう一曲!」ってことを意味するんだよねえって(笑)。
新谷 どうも、すみません!
長嶌 いえいえ。でも、最後はやっぱり「地獄唄」が良さげだろうって言っていただいて、シャンシャンといってたんですけど、最後の一音でやっぱり高橋さん節が出たんですよね。「これはちょっと、最後に泣きすぎだろう」とか、「タン!」一音のボリュームの問題でこだわってましたね、高橋さんは。
高橋 ああ、そうですね。
長嶌 最初は「タタ、タン!」で終わったんですけど、「それはやりすぎだろう」と。で、「タン!」で終わったんだけど、「タン!がでかい」と。「もっとサッと終わったほうがいいんじゃないですか」って...ホント、細かいなって思いましたね。細かいっていうか、やりたいことがシャープなんだなって気がしました。

■二人してスタジオにこもった日々
高橋 いやまあ、だいたい大きい曲はそれぐらいですかね。あと細かい...マチルダ心霊研究所にかかる「霊的な音」とか...。
長嶌 もうね、「霊的」か「犯罪的」かしかないんですよね。あと「運命」とか(笑)。
高橋 でも「霊的な音」は『ヘルハウス』を聴いてもらえばよかったから。
長嶌 うん、『ヘルハウス』は封切りでも観てたし、ある程度リアルタイムで観た印象もありましたね。でも(スタジオで)高橋さんと二人でずっといるとこをビデオ据えて回しっぱなしにしたらメチャメチャ笑えると思いますよ。どう考えてもおかしいんだもん(笑)。
新谷 ワハハハハッ、それ観たいですねえ。
長嶌 だから、高橋さんに「来てください!」って話をして、ほぼ毎日来ていただいたんですよね、コンスタントに。短くて四時間くらい、長くて六時間、七時間くらい。
新谷 あれ、何日もやってましたよねえ。
長嶌 十日間以上やってたんじゃないですか。
新谷 ちょくちょく電話をかけて「もう終わったでしょ?」「もう終わったでしょ?」って、いくらかけても「まだやってる」って言うんで、「ああ、長嶌さんエライめに遭ってるなあ」と思って(笑)。
長嶌 いつも、高橋さんはコーヒーを買ってきてくれるんですよ。「すいません、ありがとうございます」って飲みながらやるんですけど、高橋さんがご飯食べてないときはマクドナルドになるんですよ。で、マクドナルドでいっしょにコーヒーも買ってきて、俺は平気でガブガブ飲んでるんですけど、高橋さんは自分で買ってきたにも関わらず「このコーヒーは犯罪的にマズイですねえ」って。じゃあ、コーヒーだけ別に買えばいいじゃん!(笑)
新谷 ワハハハハッ、いつまでたっても終わらないから、どうなってんだろうなって思ってましたよ。
長嶌 「ホントに終わんないんじゃないか?」って気がしましたよね、途中ぐらいまでは。こんなにね、ベッタリっていうのは初めてですね。高橋さんとあれぐらい時間を狭い空間で共にした人間はご家族以外、私が人類初なんじゃないですか?
高橋 でも、新谷さんと画コンテ作ったりもしてるからね。
長嶌 ああ。でもお二人はつきあいが長いでしょうから。私は今回、お仕事するのは初めてですからね。
新谷 いや、本当に苦労されたでしょう。
長嶌 まあ、キツいんですけど...でもね、高橋さんって、作った音楽がうまくはまったときって、ホントに嬉しそうな顔をするんですよね。あれはいいですよ!(笑)
高橋 え? そうですかねえ。
新谷 ムフフフフ、いやでも、最後の殺陣のところの音楽なんてのはね、仮でつけてたよりずっといい音楽になったと思いますよ。素晴らしい音楽になったなって。ホント、みんなあれで「〈ソドム〉は救われたな」と思ってますよ。
長嶌 そんな、救われたなんて(笑)。
新谷 いや、編集の音の入ってないときからつき合ってる人間からしたらですね、やっぱりつながってないんですよね、映画自体がね。ワンシーン、ワンシーン、バラバラの映画ですから。で、何度も観てみて思うのは、やっぱり音楽の力で映画が成立している...縦線を音楽が裏から支えてくれたなって、ものすごく感じましたよ。
長嶌 いやでも、それを書いたのはやっぱり高橋さんですよね。しきりに「これでいいのか?」「これでいいのか?」って、「なに自問自答を俺に話しかけてるんだろう?」って思ったんですけど(笑)。
新谷 ワハハハハッ、いまのはいいキーワードですね。「自問自答を人に聞かせる」!
長嶌 自己と他人の境界があいまいなのかも知れないですね、話し始めると。自分が悩んでることは、当然、他人も悩んでるはずだろうと(笑)。
高橋 はあ、それってあるのかなあ。
長嶌 いや、あるんです!
高橋 そうですか。でも、まあ、これは音楽の話だけど、自分がなんか問題を抱えてて、自分一人だと煮詰まるから、人に振るじゃないですか。で、その人がどう反応するかで物事がわかってくるっていう...それは新谷さんとやってるキャッチボールがいつもそうなんですけど。それって要するに、自問自答を人に問うってことですよね。
長嶌 うん、まあ、その問い方ですよね、やっぱり。そのときのテンションっていうか。
高橋 そりゃあ、人にぶつけるときはいちばんテンションが高いときですよね。いちばん困った極点で言うわけですから。うーん、たまに美学校の生徒とかにもね、悩んだときにメールで送ったりするんですよ、「こういうことを考えてるんだけど、キミどう思う?」とかって。で、たいがい返事が返ってこない(笑)。
長嶌 アハハハハッ、返ってこない!
高橋 流されるんですよ。ちゃんと答えてくれる人はやっぱり少ないんですよね。でもそういう人がそばにいてくれないとものが考えられない。
長嶌 いやまあ、だからですね、高橋さんのことってね、やっぱ人にしゃべりたくなるんですよ。一時間ぐらいボク、ブッ通しでしゃべれますよ、高橋さんと最初に会って、どう完成したかまでを熱を込めて一時間ぐらいしゃべれますね。
高橋 いや、まあ、今日もそういう話をしていただいてるわけですが...。
長嶌 なんですか、その不本意そうなもの言いは(笑)。
高橋 いやいや、ぜんぜんそんなことありません(笑)。

■まちがっててもいいんだ!
長嶌 でも、けっきょくボク、完成版をでかいスクリーンじゃ見てないんですよ。いろいろスケジュールが合わなくて。それで、ビデオをもらって何回も観たんですけど、ぜんぶ打ち込みでほかの仕事もいままでずっとやってきたから、作り終わると観ないんですよ。で、観るとぜったい作り直したくなるんですよ。それって細かい話なんですけど、一秒間に30フレームあるじゃないですか、「あと4フレ下げとくべきだった」とか、「これテンポがあと1パーセント遅いと画面ともっと合ってたよね」とかっていうのが、どうしても目について。なおかつ、「いまやれ」って言われたらぜったい直せるわけですから。だから悔しいから観ないんですよ、だいたい。でもね、『ソドムの市』は観れるんですよ。で、ボコボコな部分ってやっぱりものすごくたくさんあるんですよ、自分から見て。で、こうすべきだったな、こうしなきゃっていうのは、ほかの映画よりもたくさんあるんだけど、でもいいんですよ。「ズレててもいいんだ!」って思える映画っていうのは生まれて初めてですね。「まちがっててもいいんだ!」っていう。
新谷 ワハハハハッ、まちがっててもいいんだ!
長嶌 なんか、危ないセミナーみたいな感じですね(笑)。まあ、それっていうのも、たぶん高橋さんがさっき言ったみたいなことが、いただいて読んだシナリオのなかに通底するものがあるからなんじゃないですかね。
高橋 そうですね、シナリオにすごくノッてくれたんですよね。
長嶌 やっぱり...正当、邪道っていう話じゃないんだけど、ものすごく格調高い悲劇の物語なんだなって。終わり方も「こうあるべし」っていうふうに思ったし。本当に良かったですよ。
高橋 ありがとうございます。
長嶌 画を見てもビックリしたし。画がきれいだと思ったし、力もものすごくあるし。『ソドムの市』だけが良くて、ほかがダメってことではないんだけど、でもぜんぜんちがうものですね。新しい体験であり、さっきの話とつなげて言うと、実は自分のいちばん...私っていう音楽家のいちばん根幹に、思わず触っちゃったっていう映画だったんじゃないかなと。
高橋 それは、やっぱり「人のいない世界に流れてる音楽を作りたい」ってことなんですかね。
長嶌 そうですね。
高橋 あれはすごい印象が強かったなあ。「ああ、長嶌さんて、そうだったんだ!」っていう。
長嶌 高橋さんと何回か遅くまでやって「メシでも食おうか?」っていうと、ソバ屋くらいしかこのへん開いてなくて、で、やっぱり二人でカツ丼頼むんですよ。「カツ丼高いですねえ、やっぱりこのへんは!」とか言いながら食べるんですけど(笑)、ガラッ!と戸を開けて、店を出たら六本木のビルとかが見えるじゃないですか。「ああ、ここにB29が飛んできて、みんなグジャグジャになっちゃえばいいのになあ」ってみたいなものはありましたね。人間的な善悪の次元とはまったく違う、ある意味野蛮で単純な破壊願望、もちろん自分もその時は死んじゃってていないんですけど、さっきの「人のいない世界......」みたいなことですよ。だからこの映画は、自分にとってものすごく泣ける映画ですね。
高橋 そう言っていただけると嬉しいなあ。
新谷 そうやって夜遅くまでかかってやってる...普通の映画に比べて労働時間的には大変ムリをお願いしちゃいましたね。
長嶌 いいんですよ、だって......OK出ないと終わらないんですから!(笑) 「仕事だから、まあこの辺が落とし所かな」とか考える気も、ましてや余裕もなく、全力でやって燃え尽きた映画でした、本当に。
高橋 い、いや...どうもありがとうございました。
〈了〉

2005年1月19日 六本木、ゼネラルエンターテイメント社にて
構成;しまだゆきやす(イメージリングス)
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