■小嶺麗奈さんと高橋洋監督のスペシャル対談!

―今日は『ソドムの市』監督の高橋洋さんとテレーズ役の小嶺麗奈さんに思い出のロケ現場でもある映画美学校にお越し願って、対談していただくことになりました。どうかよろしくお願いします。


高橋 そもそも僕の、小嶺さんにいちばん聞いてみたいことは「こういう映画ってどうだったんですか?」ってことですよね。

小嶺  こういう映画というか、ホラーというか、何て言うんだろ? 数えてみたらですね、映画で死んだりとか、死にかける役がほとんどなんですよ、いままで。昨日ちょっと数えてたんですよ。そうしたら、いままで死ななかった映画とか、元気ピンピンの女の子の役とかは「したことがない」と思って(笑)。

高橋 あ、そうか。

小嶺 そうなんですよ。幽霊だとか生け贄になって死んでみたり、自殺未遂してみたり。だから、今回がいちばん活発に動いたような気がしてるんです。でも、撮影してて終盤の方はホントにもう魔界にいるような気分になってきて「このまま終わらないんじゃないか?」って。

高橋 そういってたね。

小嶺 最後は「戦いは終わらなく続く」みたいな感じだったじゃないですか? そうしたら、途中なんか覚醒されてきちゃって「ホントに終わらないんじゃないか?」と(笑)。でも、キツい現場だったり、コアな現場だったりすればするほど、自分はその役に入っていけるような気がしてですね、やり応えがありました。

高橋 うん、最後の殺陣は、たぶん全員「終わんないんじゃないか?」っていうか、ヘンな世界に突入してましたよ。僕も、あの殺陣をやってた空間......アレ倉庫じゃないですか? あの空間と、撮影が終わった後の空間......同じ倉庫なんですけど、同じ場所とどうしても思えなくて。ちょうど台本をどこかに忘れちゃったんですよ。で、台本を倉庫に取りに行かなきゃいけない、あの殺陣をやってた空間に。でも別の場所だと思ってるから「あれ、どこだっけあそこは?」ってグルグル倉庫を何度も回ったりしてたどり着けない(笑)。

小嶺 たどり着けない!(笑)

高橋 チャンバラは終わってるから、もちろんあの空間は消えたんですけど、なんか「あそこに戻んなきゃ」ってずっと思ってて。ちょっとヘンだったね。

小嶺 私、ひとつスッゴイ覚えてるのが、「わー、監督キテるなあ」って思った一言があって。誰だったか忘れたんですけど、最後の殺陣の斬り合いのシーンで、誰かが監督に......斬り方のカタチですか? それを「これでいいんですか?」みたいなことを聞いたときに、監督が「カタチとかそういうのはどうでもいい!」って言ったんですよ(笑)。でも、私は最初に殺陣と受け身とかの稽古から入ったんですけど、そのときの監督は殺陣のカタチにすごくこだわってて。

高橋 ああ、そうですね。

小嶺 「決めるときは決めてくれ!」って、すごいそのときは言ってたんですけど、最後は「もうどうでもいい、そんなこと!」って(笑)。そのとき私、一瞬笑って「ああ、監督キテる?!」と思って。すっごいキツいながらも、ちょっとクスッと笑った思い出がありますね。

高橋 それはね、浦井(崇=ソドムの市役)ですね。浦井がね、いちばんチャンバラ勉強してたからね。「どうっすか?」って、すごい自分の殺陣に自信があったんでしょうね。で、僕が「いや、どうでもいい」って(笑)。

小嶺 私も聞いてて「アレッ?」っと思って(笑)。「いやー、最後はこうなるんだなあ」っていうか、それぐらいキテましたね。

高橋 あれはね、後になっても延々と根にもって言われた。要するにさ、浦井の殺陣を現場で誰も褒めてなかったと。で、やっと『映画秘宝』の人が、こないだのインタビューで初めて「あの人の殺陣はかなりのもんですよ」って言ってくれて。で、彼はすごい溜飲を下げたという。

小嶺 そうそう、浦井さんだった。

高橋 「でしょ? 見る人が見ればわかるんですよ!」って(笑)。でも、方針として、こうテレーズが日本刀を持って構えるようなところはカタチにこだわる。そういうのはぜったい重要だと思うんです。だから、谷垣(健治)さんに稽古つけてもらった日にすごくカッチリ決めてもらった。だけど、最後のアレはきれいなチャンバラじゃなくて、ほんとに無惨きわまりない殺し合いだから、逆にあんまり浦井君とかに殺陣にこだわられてもねえ。

小嶺 ちょっと笑っちゃいました。すごいキツかったんですけど、クスッって(笑)。

高橋 でもでも、結局そういう「崩す」にも、基本の型がちゃんと入ってなきゃ、やっぱできない。基本があって初めてできる。ホントはそういうことだったんですよね。「もう形ができてるから大丈夫だ!」って意味だったんだけど。まあ、ものすごいヒドい監督だって思われただろうなあ(笑)。

―小嶺さんは殺陣の練習はかなりされたんですか?

小嶺 一日だけでしたね。練習のあと殺陣のビデオをもらって、家で観て。殺陣と受け身と、あと銃を構える練習もしましたね。

高橋 チャンバラは前にもやったことがあったんですよね。

小嶺 あったんですけど、それは時代劇なのに殺陣の稽古もなんにもなかったんですよ! だからスッゴイ大変だったんです。殺陣というか、忍者みたいな役で、手裏剣だったりとか、刀を抜くシーンもあったんですけど、いきなり監督に「手裏剣投げろ!」とか言われて。それって太秦(うずまさ)だったんですけど、手裏剣なんて投げたことないから、こんなカッコで(両手を水平に重ねてシュッシュッと)忍者ハットリくんみたいなんだけど「こうですか?」って聞いたら、「バカヤロー! オマエ、手裏剣はこうだろう!」って(片手で垂直に投げる仕草)、すごい怒られて。

高橋 へえ?。

小嶺 「刀抜け!」って言われても、稽古もしたことないのに。だからちゃんとやったのは今回が初めてです。

高橋 そうだったんだ。今は太秦でもそんな「ぶっつけ」なんだ。

小嶺 「ぶっつけ」っていうか、適当だったんじゃないですかね(笑)。

高橋 太秦こそ、そういうことにこだわりそうですけどね。

小嶺 私、その太秦のときにものすごく怖かったんで、殺陣とかはけっこうトラウマだったんですよ。「もうやりたくない!」っていうか。だから「スタッフの人がやさしくてよかったなー」って思って。

高橋 あ、今回?「殺陣が怖かった」って、刀を振り回すことが怖いんじゃなくて......。

小嶺 じゃなくて、「殺陣の稽古」って聞いたときに「ああ、怖いオヤジが来る!」っていう(笑)。怒られたっていうか、もうあれはイジメに近かったんで、ちょっとトラウマになりましたね。だから、稽古をしに行ったときも、ほんとホッとして。「ああ、よかったあ。怖くなかった!」って思って(笑)。

高橋 そうね、谷垣さんて、いわゆる伝統的な殺陣師の世界とぜんぜんちがう......香港のクンフーアクション(爆笑)。香港映画界で鍛えあげられた人だから、人あたりがソフトで、すごいいい人ですよ。

―演じている間、小嶺さんは、このテレーズって役をどんなふうに理解されてましたか?

小嶺 あのですね、私、いろんな現場に行くたびに、共演する役者さんの台本を見るんです。こう、みんな読んでるじゃないですか? で、「どれくらいグチャグチャになってるかなあ」とか「どれくらい書き込んであるかなあ」とかけっこう見るんですけど......。

高橋 あー、なるほどね。

小嶺 でも私は、あんまりそういうの(書き込みとか)しないんですよ。読めば読むほど余計なことを考えていくっていうか、雑念が入ってきて......なんて言うんですかね、イメージし過ぎちゃうんですよ、あんまり読み過ぎると。そのときのシーンを勝手に自分のなかでイメージしちゃうんで、あんまり「読み込んで、読み込んで」とかはしないんですよ。で、監督と話したりしたときに「ここは、こうして欲しいんだよね」って、パッ!と監督が言った言葉とかだけを書くんですよ。そうしないと、役のイメージが「こういうのもあるかな」「ああいうのもあるかな」っていうのがゴチャゴチャになってしまって、整理がつかなくなったりするので、けっこう......あの、幽霊を降ろすじゃないですか、「降霊」っていうんですか? アレ的感覚でお芝居をやるようにしてるんですよね。

―それってまさに巫女のようなものですね。

高橋 そうだね。あのう......話したっけ? 最初の打ち合わせのときかなんか忘れたんですけど、要するに「巫女」なんですよ。それは、この「テレーズ」って役もそうなんですけど。ていうか、小嶺さんの映画観てると『ユメノ銀河』も『レディプラスティック』もぜんぶそうなんだけど、やっぱり「巫女」に見える。だからまあ、ある種「あてがき」っていうか。いやまあ、この映画の出演者はほとんど「あてがき」なんだけどね。

小嶺 はい。

高橋 見通しが甘いっていうかね、だって、スケジュールとかで出られない人とかいっぱいいるじゃない、ホントは。なのに、なんで「出る」って信じて書いてるのかよくわからないんだけど(笑)。

小嶺 あははは。

高橋 だって交渉もしてないんだもの(笑)。だけど、出てくれると思って、完全に小嶺さんで書いちゃったんですよ。それが「巫女」なんですね。そういう「霊が降りてくる人」っていうことだったんです。で、最初の打ち合わせのときに、それを言ったのかなあ......それは忘れちゃったんだけど、さすがに僕も不安っていうか「こんなワケのわからんシナリオ渡してしまって混乱してるのかな」って思って、「すいません、なんか質問ないですか?」って聞いたら「ありません!」って。

小嶺 いつもないですよ、私。

高橋 え、いつもないの?!

小嶺 けっこうないです。

高橋 ふうん、そうなんだ。で、やっぱり現場でみんな言ってたのは、小嶺さんの集中力。集中がすごいっていう。でね、今回『映画の魔』(青土社)の本で使わせてもらったんですけど......これは本番じゃなくて、リハのときの写真ですけどね、最後の殺陣のところですよね。たとえば、こういう表情になるわけですよ、ギュッ!となんか、すごい集中したものが出るんです。これにみんなビックリしたんですね。「じゃあ、いきます」となるとギュッ!とこう、入るっていう。

小嶺 あ、そうですね、これリハですね。けっこうキてますね(笑)。


『映画の魔』(青土社刊)より

高橋 あのね、新谷(尚之)さんって覚えてます? 特撮の人だったんだけど、彼が現場でスチル撮ってて。わざとね、シャッタースピード遅くして「もうぜんぜんピント合わなくてもいいや」って思ってパチパチ何度も何度も押してて、このとき偶然ピタッとね。「ああ、そうそう、小嶺さんて、集中してるとき、この表情だよね!」っていう顔を捉えてしまったので、それでこの写真を使ったんですよ。

小嶺 私、だから、すっごい疲れるんですよ、演技してるのが。早死にするんじゃないかと思うくらいに(笑)。写真に撮られるときもそうなんですけど、自分が息してるのかどうかもよくわかんないような状態になって。なんていうんですかね、疲れるっていうか。俳優で佐野史郎さんっていらっしゃるじゃないですか?

高橋 ええ、佐野史郎さん。

小嶺 佐野史郎さんと一度だけ、役者という仕事について話をしたことがあって。けっこうみんな役者さんって「演じるのがすごく好きです」って、「楽しくてしょうがない」っていう人ばかりなんですけど、「私、楽しくないんですよ」って話をしたことがあるんです。ていうのは、やっぱり、他の人になるわけじゃないですか? で、自分は「素の自分」でいるのがやっぱり好きっていうか、みんな誰しも自分がいちばん好きですよね。だから苦労をして他の人を演じるっていうのに「私は楽しみじゃなくて、すごく苦を覚えるんですよ」っていう話をして......そしたら佐野さんもいっしょだったんです。やっぱりドラマとかだと演技力というか、テクニックで乗り越えられるらしいんですけど、「本当に自分がやりたい役に直面したときは苦しい」って。

高橋 ははあ。

小嶺 役に入るときは、自分っていうのをなるべく押し出すわけじゃないですか。だけど「自分が演じてる」ってところも核にはあるので、すごい苦しい。大変疲れますね。役にエネルギーを吸い取られてるような感じです(笑)。

高橋 その「自分を押し出す」っていうのは「自分を外に出しちゃう」「殺しちゃう」ってことね。

小嶺 たぶん家から現場にくるときっていうのは、役と自分は半分半分くらいで。で、化粧が終わるくらいでかなり役の部分が増えて、本番に向けてぜんぶ自分を外に出さなきゃいけないという。さっき「降霊」って言ったのは、それが終わったあとって、もうぐったりしてるじゃないですか? そういう感じですね。だから、すごい疲れます、いつも。「現場に行くのが楽しい!」って言ってる人っていうのは、けっこうすごいなあって(笑)。

―そういうのめり込むような感じってデビュー当時からだったんですか?

小嶺 デビュー当時(『水の中の八月』)のほうがもっと考えてなかった。「演技力なんてどうだっていい!」って言われてたから。

高橋 それは、監督の石井聰亙さんに?

小嶺 はい。私みたいな新人は何か考えて演技すると、どんどんヘンになっていくから「直感でやりなさい」って言われてたから。ちょっと小細工しようもんならすぐにカットされたりしてたので。

高橋 なるほどね。

小嶺 だから、映画がまず決まったときがいちばん嬉しいんですよ。「ああ、次はこの映画だな」って。そこまでなんですよ、私の楽しいウキウキっていうのは。で、クランクインの三日くらい前になってくると、「あ?、あの魔の生活がくるなあ」って覚悟を決めてますね(笑)。

高橋 じゃあ、ほんとに最後のチャンバラとか大変だったんだね。ものすごい長時間、ずうっと魂を入れてなきゃいけなかったみたいな。

小嶺 そうですね。でもね、ああなってくると......けっこう私のいままでの経験なんですけど、キツければキツい現場ほど、私、集中できるんですよ。なんか引き締まってきて(笑)。

高橋 まあ、たしかに、すごい怖い顔になってた。いや、それでよかったっていうかね。「そうだ、そうだ」って思ったんだけど。

―そういうキリッと真面目な顔のまま、けっこうギャグみたいなこともやってますよね?

小嶺 そうですね(笑)。でも私以上に、監督のほうが真面目な顔して指示してたじゃないですか。

高橋 そうだよ、俺本気だよ(笑)。冗談やってるなんて一瞬も思ってない。

小嶺 私、やってるときは「うんうん、そうか」って真面目に聞いてるので。ちゃんとつながったのを試写で観たときに「あ、ここ面白いシーンだったんだなあ」と。

―通りすがりの人とかいっぱい殺してます。

小嶺 そうですね、真面目に殺してました(笑)。

高橋 それがよかったと思うんですよ。「いや、小嶺さん、これぜったい真面目にやってるよ」と撮ってる方がみんな信じられたから、それが嬉しかったですね。役者さんの自意識で「あ、これはパロディなんだ」っていうのが入っちゃうと、たぶんぜんぶ冗談になっちゃう。「冗談だから笑ってください」ってなっちゃうと思うんだけど、そうじゃなくて、観客には「なんだかわかんないもの」に出会ってほしいっていうかね......三留まゆみさんがパンフレットに書いてくれたんだけど「テレーズの方が市より残虐かもしれない」って。それはもう、ぜんぜんそう見えていいっていうことなんですよ。あれって一種の「女地獄」の話だからね。

小嶺 でも共演した人たちがみんないい人たちだったんで、私はけっこう困ったんですよ。

高橋 困ったの?

小嶺 こういう「敵」と「味方」に別れるような役のときは、私、敵としゃべりたくないんですよ。仲良くなったりとかは......できる限りしゃべりたくなくて。でも、みんなすっごいいい人たちで。

高橋 園部(貴一=蛇吉役)さんとかわりと馴れ馴れしかったでしょ。

小嶺 あー、けっこう困りましたね(笑)。でも、無視してると思われるのも困るし。「役に入ってるのでしゃべりかけないでください」っていうのも「なんだコイツ?」って思われそうで嫌だし。仲のいい役の作品のときはなるべく話すようにしたいんですけど、今回は冷酷な役だったので。

―テレーズは正義の側だけど孤独な役でしたね。悪人であるソドムたちの方が仲が良くて。

高橋 ソドムは一味だからね。

小嶺 なので、今回いちばんしゃべったのは蛇吉さんくらい。

高橋 馴れ馴れしいですけどね。まあ、浦井曰くだけど、俳優部的には「小嶺さんとなんとか仲良くなろう!」ってみんなで話し合って、こういうときに壁を突破できるのは「園部しかいない」と(笑)。園部さんを送り込もうと戦略を練ったらしい。彼には遠慮がないから。

小嶺 いやあ、申し訳ないです(笑)。

高橋 でもそういう苦労があったんだなあ。で、浦井はやっぱり迷惑だったと。「高橋さん、僕って役者さんの気持ちが人よりも早くわかるんですよね」って言ってたんだけど(笑)。いやなんかね、撮影の最後の日に「お疲れさま!」って言って、小嶺さんが浦井と別れるときに......「謎の発言」って浦井は言ってたんだけど、小嶺さんが「お幸せに...」って手を振ったと(爆笑)。その「お幸せに...」って、なんのことだか意味がぜんぜんわからなかったって言ってたんだけど、あれは覚えてる?

小嶺 はい、覚えてます(笑)。

高橋 あれってなんだったの? 「このお気楽野郎め!」ってこと?

小嶺 ちがいますよ(笑)。亜紀ちゃん(宮田亜紀=キャサリン役)と......あれはどこの現場だったかなあ、どこからか帰るときに、宮田さんと電車がいっしょで、彼女から「すごく長くつき合ってる彼氏がいる」って話を聞いたんですよ......あ、これしゃべっちゃマズいですよね。

高橋 いや、ぜんぜん構いませんよ!

小嶺 で、「あ、そうなんだ」「すごいですね」って言って。そしたら「大阪からいっしょに出てきたんです」「この現場にいる」って話になって。

高橋 なんか小出しにしてるなあ(笑)。

小嶺 でもその彼氏には「言うな!」と言われたと。で、私も「別に言いたくないんだったら、言わなくても大丈夫ですよ」っていう感じで、ただ会話のなかでそうなっただけだったんで......そしたら、田中(深雪)さんていたじゃないですか? 女性の方。

高橋 はいはい、制作デスクのね。

小嶺 その田中さんがしゃべってるときにポロッと言ったんですよ「あの二人(浦井崇と宮田亜紀)です」って(笑)。で、私は「あ、そうだったんだ!」と思って。そういえば台本でも「お兄ちゃん、結婚する人がいなかったら、ウチがしてあげるで」って......私はそのシーンって「監督とかみんなの気持ちを込めて作ったもんだから」っていうのを誰かから聞いて、勝手にどんどん「この二人は結婚するんだ」って頭のなかで思い込んじゃって。じゃあ、撮影も終わったことだし「お幸せに...」って。

高橋 ははあ!

小嶺 もうただ単に、意味もなく、ふつうに口をついて出たんですよ「お幸せに...」って。撮影中はそういうプライベート的な話をまったくできなかったんで、その一言に私の気持ちを込めちゃったんですね。

高橋 そうだったんだ。浦井はね、キョトンとしてね(笑)。で、たぶん中原翔子さん(=マチルダ役)が、いま話してた......小嶺さんが役に入ろうとする苦労とかをいちばんわかってたんだろうなあ。だから翔子さんは、浦井から「お幸せにって言われたんですよ」って聞いて「そうだろ? それはオマエがいかに甘いかってことを言おうとしたんだよ!」って説教を始めたんだって(笑)。「オマエも役者としてやっていくんなら、それぐらいはわかんなきゃダメだ!」みたいな。でも、そうじゃなかったんだね。

小嶺 そうです。最後がもう小嶺麗奈の......私の、役とか抜きの言葉だったんです。

高橋 いい話だねえ。あの二人は隠してたつもりだから、わかんなかったんだろうね。でも僕らは、ずっとあの二人がつき合ってるのは当然知ってて、前の『アメリカ刑事』って映画から二人に出てもらってるんですけど、あの二人をキャスティングするとき必ず兄妹なんです。男と女の関係に見えないんですね。兄妹に見える。で、兄妹の役を振り当てると、ものすごくメロドラマ的にいい感じ......それは『男はつらいよ』のサクラと寅次郎みたいな。要するに妹が健気でお兄ちゃんがアホっていう(笑)。その悲劇だよね。あれは悲劇じゃないですか『男はつらいよ』って。そういうダークな感じ......兄妹で、メロドラマで、わりと暗い淵をちょっと覗いてるような感じがあの二人には出る。特に亜紀ちゃんはそれが全身に漂ったりするんですよね、たまに。それでいつもアテ書きすると兄妹役になっちゃう。

―小嶺さんは他に撮影中の思い出ってあります? 唄をうたってますが。

小嶺 ああ、あれはちょっと恥ずかしかったですね(笑)。

高橋 あれはね、タイトルバックの「地獄唄」は長島(寛幸)さん作曲で、僕が作詞だったんですけど......でも「地蔵和讃」の方が唄いにくかった? 「地蔵和讃」って井戸の底で唄うやつ。あれはね、メロディラインがあるようでないようなものですから。だから僕が見本を唄ったんですよ(笑)。長島さんも「いや、これは僕がメロディラインを旋律で書くよりも、高橋さんの身体のなかから出てくるものだから...」って。地唄みたいなもんだから。あと、映画でいうと内田吐夢の『大菩薩峠』とかね、そういうのに流れてたんですけど。そういうのが耳のなかにずっと残ってて。だからメロディラインで聞いてもらうよりも、自分で唄うしかないような曲で。僕が唄ったのを聞いてもらって。ああいう節回しって、あんなのはまったく知らない?

小嶺 初めてでしたね。


井戸底の地蔵和讃 


井戸の中の二人と高橋監督 

高橋 あの唄自体も知らなかった?「一つ積んでは父のため」って。

小嶺 知りませんでした。メロディは何かに似てるんですよね。「なんか聞いたことあるメロディだよね」って宮田さんとはしゃべってたんですよ。最初「麗奈ちゃん、今回歌があるから」ってマネージャーに言われて「はい、わかりました」って聴いたら、あれだったんです。「お経じゃないですか、これ?」って(笑)。熊本に民謡があるんですけど「五木の子守唄」って。やっぱりお経っぽいんですよ、それって。

高橋 「おどま、盆ぎり、盆?ぎり」ね。

小嶺 あ、それです。で、ずうっと子供のころから聴いてるから「五木の子守唄」とかはなんとなく唄えるんですけど、でも方言じゃないですか? だからけっこう理解不可能な歌詞だったりして。そういう子供のころから聴いてたら、あの唄もちゃんと唄えたんだと思うんですけど、いきなり聴くと、まるで念仏のような......最初「なんだろう?」「なんかゴソゴソ言ってるよ、これ!」って(笑)。

高橋 僕が言ってるんですけどね(笑)。

小嶺 「夜聴くと怖い?!」って(笑)。二人で合わせて唄うと、またどっちかに合わせようとするから難しかったりして。

高橋 二人で練習してるのを聴いてると、すごいよかった感じがしてね。「いやあ、今の若い女性二人が、なんでこれ唄ってんだろう?」ってちょっと不思議に思ったりするんだけど(笑)。でもやっぱ、切々と胸に迫るものがあってね。

―最後に高橋監督から小嶺さんに質問とかありますか?

高橋 う?ん、そうだなあ、この対談って、『ソドムの市』のホームページに載っけるんですよ。それで、小嶺麗奈ファンの人が映画を観にきてくれるようにやってるわけね。だから、どうなんだろう、小嶺麗奈ファンの人たちって、たとえば『ソドムの市』に小嶺さんが出てるのを観て......怒るかなあ?(笑)

小嶺 あはははは!

高橋 ていうか、どういう反応をするかな?

小嶺 いや、私、自分のパソコンで(ファンの人のサイトを)観たんですけど、「『ソドムの市』に出ますよ」っていうのを、やっぱりもうファンの人たちはみんな知っててですね。で、「なんで、小嶺麗奈さんは、そういうホラー映画とかが多いんですか?」っていう書き込みがすっごい多いんですよ。「そういうのが専門なんですか?」って思ってる人もいるくらいで(笑)。だから、けっこうみんな見慣れてるんじゃないですかね。

高橋 ああ、そういうのもあるか。『ユメノ銀河』も『レディプラスティック』も、取り殺しちゃう役だしね。

小嶺 だから、みんな期待してくれてるんじゃないんですか?「今度はどんな殺し方するのかな」って(笑)。

高橋 たしかに一回劇中で......18世紀のときに死んじゃうけど、そのあとは不死身ですからね。不死身で暴れ回る人だから、そこは今までにない役かも知れないね。

小嶺 そうですね。

高橋 あと質問はねえ......あ、そうだ! 今回の『ソドムの市』の現場なんですけど、あれはどうでした? まったくもうプロフェッショナルじゃない現場じゃないですか。「ゲゲッ?」って感じの(笑)。「なんだ、これは?」って思いませんでした?

小嶺 いやあ、でも、もっとヒドいとこもありますからね(笑)。

高橋 それはプロフェッショナルで?

小嶺 うん。私、怒ったことありますよ、一回だけですけど。(現場で)みんなイライラしてるときって、やっぱどうしてもあるじゃないですか? そのときに、あんまり関係のない、私のスタントマンみたいな人......それって外国で撮影したショートフィルムだったんですけど、その外人の方に怒鳴ったスタッフの人がいて。それで私、頭にきて、一回だけ怒ったことがあるんですよ(笑)。それくらい、いくらプロの人たちがいてもうまくいかない現場もあるので。まあ「コノヤロー!」って怒ったわけじゃないですよ。「みんなイライラしてるんだから、みんなキツいし、疲れてるのはいっしょじゃないですか!」って言ったくらいなんですけど。

高橋 うんうん。

小嶺 だから、今回はみなさんが優しかったから、それが本当に救いでしたよ。キツい現場のときにイライラされて、怒鳴ったりとかする人がいると、やっぱりいいようにはいかないから。

高橋 実は、今回『ソドムの市』をやるときに決めたんだよね「ぜったいにプロっぽくしない」っていう......役者さんにはぜんぜん言わなかったんだけど、スタッフには「俺を〈監督〉と呼ぶな!」と。あと「〈高橋組〉っていう言い方もイヤだ!」で、「〈おはようございます〉は午前中だけにしろ!」(笑)。それと「〈お疲れさま〉とやたらと言ってはいけない!」とかね、なんかそういうのから入ろうと。だから、誰かが失敗してもぜったいに責めない。でも、ほんとはものすごく失敗してるんです(爆笑)。

小嶺 あははは、そうなんですか(笑)。

高橋 小嶺さんはあのときいなかったのかな......蛇! 蛇がここ(映画美学校)の床を這ってたんですよ。アレ本番ではぜんぜん動いてくれなかったんだけど、あの蛇を段ボール箱に入れてもってきたんですよ、二匹ね。で、「いやあ、まさかこれ、逃がしたりはしないよねえ、ハッハッハ...」って言ってたら、本当に逃がして(笑)。
小嶺 ええっ!

高橋 そこの隅っこに入っていっちゃった。

小嶺 で、いなくなっちゃったんですか!?

高橋 うん(笑)。いちおう業者からは「どうなってもいいですから」ってもらったものだったんですけど、箱から逃げて一匹どこかへいっちゃって。だけど、ぜんぜんスタッフを責める気になれなくって......「まあ、なんとかなるよ」ってね。むしろ美学校の業務のほうが心配で、それでなんとか見つけて、やっと二匹そろって撮影ができたんです。

小嶺 ホントにみんな優しかった。『ソドムの市』が終わったあとに、私、二本映画を撮影したんですけど、そのうちの一本が大変な現場で......題名は言えないんですけど、共演の方がもうスタッフに怒鳴りまくりでしたね。「正味二日間で撮り終えるから」って言われて引き受けたんですけど、そしたら計四日かかって。要するに前日の朝七時とかに入って、次の日の朝までとかを二回やったんです。二日ともそうだったんで、結局計四日になり、すっごい大変でしたね。体力的には『ソドムの市』のほうがキツかったんですけど、スタッフのみんながすごい優しかったんで、よかったなあって(笑)。

高橋 ああ、ありがとうございます(笑)。これからもよかったら、僕の映画に出てください。今日はどうもありがとうございました。

小嶺 こちらこそありがとうございました。


美学校にいた奇形熊とともに(映画には出てきません)

 

2004年9月27日 映画美学校にて
構成:しまだゆきやす(イメージリングス)

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